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STRATEGY — 2026.10.08

【IT業】【利益設計】IT企業のユニットエコノミクス|案件別利益を整える方法

こんにちは、ストラテジーデザインの吉田です。
今日の記事は、受託開発・SaaS・保守を手がける中小IT企業が、ユニットエコノミクスで案件別の利益構造を見える化し、単価と人員配置を整える方法を解説します。

受託開発の売上は伸びているのに、期末になると利益が残らない。
保守契約は安定しているのに、問い合わせ対応で担当者が疲弊している。
このような状態は、中小IT企業で起こりやすい課題です。

原因は、案件ごとの売上だけを見て、実際に使った工数や追加対応の負担を十分に追えていないことにあります。
この記事では、ユニットエコノミクスを使い、受託開発・SaaS・保守の採算を小さく見える化する方法を解説します。

この記事の要点

ユニットエコノミクスとは、顧客・案件・契約などの最小単位ごとに、売上、変動費、工数、粗利を確認して収益性を判断する考え方です。中小IT企業では、全社損益だけでは見えない案件別の利益構造を整えるために使えます。

  • 中小IT企業の利益改善は、全社の売上目標ではなく、案件・顧客・契約単位の採算をそろえることから始めます。
  • 受託開発は案件別、保守は契約別、SaaSは顧客群別に見ると、赤字化の原因を具体的に把握できます。
  • エンジニアの稼働時間を原価として置くことで、値引き、追加要望、無償保守が利益へ与える影響を判断できます。
  • AI活用は人を減らすためではなく、定型作業の時間を減らし、高付加価値業務へ再配分するために評価します。

IT企業の利益が見えにくくなる3つの理由

IT企業の利益が見えにくくなる3つの理由

IT企業の利益が見えにくい最大の理由は、売上の単位と仕事の負担の単位が一致しないことです。
月次の損益計算書では黒字でも、一部の案件が利益を大きく押し下げている場合があります。

中小IT企業の採算管理は、会社全体ではなく仕事のまとまりごとに見る必要があります。
受託開発、保守、SaaSでは、利益が崩れる場所が異なります。
まず、自社で起きている負担を分類してください。

特に注意したいのは、担当者の残業や善意で成立している案件です。
顧客満足度が高くても、特定の担当者しか対応できず、引き継げない仕事は利益の再現性が低い状態です。

10月は、最低賃金改定の影響も含めて人件費を見直しやすい時期です。
ただし、給与だけを上げ下げする話ではありません。
人件費が上がる局面では、どの顧客に、どの水準の支援を、どれだけの時間で提供するかを明確にする必要があります。

最初から精密な原価計算を目指す必要はありません。
直近3か月の案件から、予定工数と実績工数の差が大きいものを3件選びます。
その差が生じた理由を、営業、開発、保守の担当者で30分確認するだけでも、優先して直すべき仕事が見えてきます。

ユニットエコノミクスをIT企業に当てはめる方法

ユニットエコノミクスをIT企業に当てはめる方法

ユニットエコノミクスは、大企業だけの複雑な経営分析ではありません。
自社にとって繰り返し発生する仕事を一つの単位として決め、その単位で売上と負担を比べる方法です。

ユニットは、担当者が一目で内容を思い出せる大きさに設定することが実務的です。
細かく分けすぎると入力が続かず、粗すぎると改善点が見えません。
事業ごとに次の単位から選んでください。

各ユニットで記録する数字は、最初は四つで十分です。
売上、直接外注費、担当者の実績時間、追加対応時間です。
実績時間には、会議、問い合わせ、レビュー、資料作成も含めます。
開発作業だけを記録すると、実際より利益が高く見えます。

人件費の置き方は、月給を単純に160時間で割る方法でも始められます。
ただし、実際には全時間を顧客業務に使えるわけではありません。
社内会議、教育、有給休暇、提案準備を考慮し、稼働可能時間を別に置くと実態に近づきます。

たとえば、保守契約の月額売上が一定でも、問い合わせが多い顧客は利益を圧迫します。
この場合、顧客を責めるのではなく、契約範囲、受付方法、回答期限、追加作業の扱いを整えることが改善策になります。
数字は顧客との関係を悪くするためではなく、継続できる支援体制をつくるために使います。

案件別採算で最低限見るべき4つの数字

案件別採算で最低限見るべき4つの数字

案件別採算では、売上だけでなく、時間と追加対応を同時に確認します。
受注時に利益が出る計画でも、途中の変更や確認作業で工数が増えれば、実際の利益は変わります。

案件別採算は、赤字案件を探すためではなく、利益が崩れる工程を特定するための管理です。
月に一度、次の四つを案件または契約ごとに並べてください。

ここで重要なのは、粗利率だけで判断しないことです。
小規模でも安定して利益が出る保守契約は、採用や売上の変動を支える基盤になります。
一方で、売上が大きくても、管理職が頻繁に火消しへ入る案件は、他の案件を受ける余力を奪います。

受託開発では、予定工数との差を必ず見ます。
差が生じた理由は、見積もり不足、仕様の曖昧さ、顧客確認の遅れ、技術的な難易度、社内レビュー不足などに分けられます。
理由を一つに決めつけず、案件終了時に15分だけ振り返る運用を続けてください。

SaaSでは、解約率だけでなく、導入支援にかかる時間を見ることが大切です。
導入直後の設定や問い合わせに時間が集中するなら、オンボーディング、つまり利用開始を定着させる支援の標準化が課題です。
説明動画、初期設定のチェックリスト、問い合わせ分類を整えると、担当者ごとの差を減らせます。

数字はスプレッドシートで管理できます。
毎日入力する必要はありません。
まずは毎週金曜日に、各担当者が案件別の時間を15分単位で記録する運用から始めると、現場への負担を抑えられます。

単価改定とAI活用を利益設計につなげる

単価改定とAI活用を利益設計につなげる

ユニットエコノミクスで採算が見えると、単価改定とAI活用を感覚ではなく事業判断として進められます。
値上げやAI導入を別々の施策にせず、顧客への提供価値と必要工数の両方から考えることが重要です。

単価を見直す前に、無償で提供している業務を契約上のサービスとして分けることが先決です。
価格だけを上げても、支援範囲が曖昧なままでは、利益が改善しにくいためです。

最低賃金改定を含む人件費上昇は、単なるコスト増ではありません。
若手の育成、品質確認、セキュリティ対応に必要な時間を、サービス価格へどう反映するかを検討する機会になります。
取引先へ説明する際は、自社都合だけでなく、対応品質や継続体制を守るための見直しとして具体的に伝えます。

AI活用も同様です。
議事録の下書き、テストケースのたたき台、問い合わせの分類、設計書の検索補助などは、時間削減の候補になります。
ただし、顧客情報やソースコードを外部サービスへ入力する場合は、契約、利用規約、情報管理の確認が必要です。

AIで短縮できた時間は、そのまま人員削減として扱う必要はありません。
要件定義の品質向上、顧客との対話、若手レビュー、提案活動へ再配分できれば、単価を支える価値づくりにつながります。
導入前後で、対象業務の所要時間と修正回数を比べて評価してください。

10月から始める案件別利益管理の30日計画

10月から始める案件別利益管理の30日計画

案件別利益管理は、経営者だけが数字を集めても定着しません。
営業、開発、保守が同じ基準で案件を見る仕組みにして、月次の判断へつなげることが必要です。

中小IT企業のユニットエコノミクスは、30日間で試し、翌月から対象を広げる進め方が現実的です。
全案件を一度に管理せず、まず利益への影響が大きい範囲に絞ってください。

会議は60分で十分です。
前半30分で数字を確認し、後半30分で「やめること」「標準化すること」「顧客へ提案すること」を一つずつ決めます。
数字を眺めるだけで終わらせず、次回までの担当者と期限を決めることが大切です。

たとえば、問い合わせが集中する保守契約なら、受付窓口を一本化し、依頼内容を分類するだけでも改善の第一歩になります。
要件変更が多い受託案件なら、見積もり前の確認項目を増やし、変更依頼書の運用を始める方法があります。
SaaSの導入支援が重いなら、初期設定を画面共有で説明する前に、顧客自身で進められる手順を整えます。

今後は、AIによって開発や保守の一部作業が速くなる場面が増えると考えられます。
そのとき競争力になるのは、作業時間の短さだけではありません。
顧客の業務を理解し、品質、運用、改善まで支援できる体制です。
案件別の利益を把握する仕組みは、その体制へ人と時間を振り向けるための経営基盤になります。

よくある質問

Q. 小規模IT企業でもユニットエコノミクスは必要ですか?

必要です。
従業員数が少ない企業ほど、一つの赤字案件や無償対応が経営へ与える影響が大きくなります。
まずは全案件ではなく、工数が多い案件や更新時期が近い保守契約から確認すると負担を抑えられます。

Q. 案件別原価はどこまで細かく計算すべきですか?

最初は売上、外注費、実績工数、追加対応時間の四項目で十分です。
会議や問い合わせ対応も工数に含め、利益を崩している工程を見つけます。
細かな配賦計算は、運用が定着してから追加してください。

Q. 保守契約の採算が合わない場合はどうしますか?

契約範囲と実際の対応内容の差を確認することが先です。
問い合わせ件数、緊急対応、追加作業を記録し、受付方法の変更、範囲の明確化、追加メニュー化、更新時の価格見直しを順に検討します。

Q. AI活用で削減した工数は単価に反映できますか?

一律に値下げへ反映する必要はありません。
AIで短縮した時間を品質確認、提案、顧客支援へ振り向けるなら、提供価値は維持または向上します。
まずは対象業務の時間、修正回数、顧客評価を確認して判断します。

Q. 単価改定を顧客に伝えるタイミングはいつですか?

契約更新の90日前を目安に準備を始める方法が実務的です。
人件費上昇だけを理由にせず、支援範囲、対応体制、品質維持の取り組みを具体的に説明します。
契約条件は顧客ごとに整理して提示してください。

中小企業が明日から取り組めること

  • 直近3か月で予定工数を超えた案件を3件選び、超過した理由を担当者と15分ずつ確認します。
  • 保守契約ごとに、当月の問い合わせ件数、対応時間、契約外作業を一枚の表へ記録します。
  • エンジニアの時間記録には、開発以外に会議、顧客連絡、レビュー、障害対応も含めます。
  • 次回の見積書から、作業範囲、前提条件、仕様変更時の扱いを営業と開発で統一します。
  • AI活用候補を一業務に絞り、導入前後の所要時間と修正回数を4週間比較します。

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この記事を書いた人

吉田 光広

吉田 光広 / 代表取締役CEO ストラテジーデザイン株式会社

1997年からITの最前線に立ち、ゲーム開発を経てWeb・システム開発の会社経営を20年以上継続。 現在はAIコンサルタントとして上場企業への講師登壇や高校生向けAI教育を担当し、 ITプロ育成スクール「PROCLASS」代表も兼務。中小企業のAI・DX導入を現場で支援している。

著書:泥臭いAI ― リアルビジネスをAIでハックする/AIを雇う技術 ― 100人の天才を部下にする仕事術/AI×教育の実践ガイド ― 問いを立てる力を育てる

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