【介護】【業務改善】介護・医療の業務改善|オランダ式自律チームを小規模に活かす
こんにちは、ストラテジーデザインの吉田です。
今日の記事は、オランダの訪問看護で知られる自律チームの考え方を、介護事業所・クリニック・歯科が無理なく取り入れる方法を解説します。
介護事業所、クリニック、歯科では、現場の判断が管理者に集中しやすい傾向があります。
急な欠勤、利用者や患者の予定変更、記録の遅れが重なると、管理者が調整役に追われます。
海外の大規模な成功事例を、そのまま導入する必要はありません。
この記事では、オランダの訪問看護で知られる自律チームの考え方を、従業員5〜200名規模の事業所で試す方法に絞って解説します。
重要なのは、新しい組織図をつくることではありません。
現場で決めること、管理者に上げること、記録に残すことを分けるだけでも、日々の詰まりを見つけやすくなります。
この記事の要点
自律チームとは、現場の小さな単位に必要な判断権限と情報を渡し、日々の調整をチーム内で完結できるようにする運営方法のことです。管理者がすべてを判断するのではなく、判断基準をそろえる点に特徴があります。
- 介護・医療の業務改善は、全員に裁量を渡すことではなく、現場で決めてよい範囲を明文化することから始めます。
- オランダの自律チームの考え方は、担当固定、情報共有、短い振り返りの三つに縮小すると小規模事業所でも使えます。
- 記録時間の削減だけを目標にせず、加算要件の確認、引き継ぎ品質、利用者対応まで一緒に整えることが重要です。
- お盆前後の稼働差は、日常業務を止めずに改善対象を一つ決めるための、下半期の見直し機会になります。
オランダの自律チームから学ぶ介護・医療の運営

オランダの訪問看護組織として知られるBuurtzorgは、地域ごとの小さな看護チームが利用者対応を担う運営で、国際的にも広く紹介されてきました。
ここで注目したいのは、特別なITだけではなく、現場チームが日常の調整を担う設計です。
小規模事業所が学ぶべき点は、管理者をなくすことではなく、判断の渋滞を減らすことです。
介護・医療の現場では、利用者や患者ごとに例外が起こります。
そのたびに管理者の確認が必要なら、返答待ちが積み重なります。
海外の自律チームは、一般に次のような仕事をチーム単位で扱います。
- 担当利用者や患者の状況を共有し、日々の対応順を調整する
- 急な予定変更時に、誰へ連絡し、誰が代替するかを決める
- 記録の漏れや請求前の確認事項を、決めた頻度で点検する
- 困難事例を一人で抱えず、短時間の相談で支援方針をそろえる
ただし、日本の介護・医療では、配置基準、管理者の責務、資格要件、個人情報の扱いがあります。
海外の組織形態をそのまま移すのは適切ではありません。
法令、指定基準、保険診療や介護報酬のルールは、必ず所管機関や最新の通知で確認してください。
中小事業所での第一歩は、権限を大きく変えることではありません。
まず一つの事業所、一つの時間帯、一つの業務だけを対象にします。
たとえば、訪問予定の入れ替え、当日キャンセルへの連絡、診療前準備の補充判断などです。
管理者は「全部を決める人」から、「判断基準を整えて例外を受ける人」へ役割を少し変えます。
現場は、決められた範囲で早く動けます。
この分担ができると、管理者の不在時にも仕事が止まりにくくなります。
重要なのは、現場任せにしないことです。
判断してよい金額、時間、連絡先、記録方法を、短いルールとして残します。
自律とは自由放任ではなく、共通の基準を使って現場が動ける状態を指します。
人員配置と引き継ぎを小さなチームで整える方法

人員配置の課題は、人数が足りないことだけではありません。
誰がどの利用者や患者の状況を知っているかが偏ると、休みや退職の際に現場が不安定になります。
担当者個人の経験に依存する状態を、少しずつチームの情報に変える必要があります。
担当固定と情報共有は対立しません。
主担当を決めたうえで、副担当が状況を分かる状態にします。
これが、小規模な自律チームをつくる際の基本です。
主担当が責任を持ち、副担当が急な変更を支えます。
介護事業所なら、利用者を二人から四人程度の職員グループで見ます。
クリニックなら、受付、看護、診療補助の間で、当日の注意事項を共有します。
歯科なら、患者ごとの準備物、説明状況、次回対応を、担当歯科衛生士だけに閉じない形にします。
最初に整える項目は、次の四つです。
- 主担当と副担当を、利用者・患者ごとに一人ずつ決める
- 副担当が確認すべき情報を、三項目から五項目に絞る
- 当日変更の連絡順を、職種ごとではなく事案ごとに決める
- 引き継ぎが必要な例外を、口頭だけで終わらせず記録に残す
共有項目を増やしすぎると、記録負担が増えます。
たとえば「家族への連絡が必要」「移乗時に注意が必要」「予約変更の希望がある」といった、次の担当者が困る情報から始めます。
詳細な経過は既存の記録に任せ、引き継ぎ欄は短く保ちます。
毎朝の長い会議も必要ありません。
五分から十分分の確認で、当日変動がある利用者・患者だけを扱います。
画面共有や紙の一覧を使う場合も、個人情報の閲覧範囲には注意が必要です。
私物端末や個人アカウントでの共有は避け、事業所が管理する方法を選びます。
人員配置を変える前に、まず「誰に聞けばよいか」を明らかにしてください。
職員は、困ったときの相談先が分かるだけでも動きやすくなります。
小チーム化の目的は、少人数で無理をすることではなく、急な変化を一人で抱えないことです。
記録業務と加算管理を現場判断で止めない仕組み

介護・医療の記録は、単なる事務作業ではありません。
支援や診療の継続性を支え、請求や加算の根拠にもなる重要な情報です。
一方で、記録が後回しになると、月末に確認作業が集中し、現場と管理者の負担が一気に高まります。
記録業務の改善は、文章を短くすることより、確認すべき時点を前倒しすることが有効です。
月末に不足を探すのではなく、サービス提供日や診療日の近くで確認します。
記憶が新しいうちなら、修正の確認も早くなります。
自律チームの考え方を記録に使うなら、担当者が自由に記載方法を決めるのではありません。
必要な記録の条件と、確認する役割をチームで共有します。
管理者だけが全件を後追いする状態から、日々の一次確認を現場に分ける形です。
業務を分ける際は、次のように整理します。
- 担当者は、サービス・診療の当日中に事実と対応内容を記録する
- 副担当または当番者は、翌営業日までに必須項目の漏れを確認する
- 管理者は、例外案件、期限が近い案件、判断が必要な案件を確認する
- 請求担当者は、月末前に要件と実績の突合を行い、不足を一覧化する
この仕組みでは、「誰が悪いか」を探す一覧にしないことが大切です。
不足が生じた理由を、入力画面、業務の順番、連絡方法に分けて見ます。
たとえば訪問後に記録端末へ触れる時間がないなら、職員の注意力ではなく、記録する場所と時間の設計を見直します。
生成AIを記録の下書きや要約に使う方法もあります。
ただし、要配慮個人情報を含む可能性が高いため、外部サービスへの入力範囲、契約内容、保存先、権限設定を先に確認してください。
AIの出力を、そのまま記録として確定する運用は避け、人が事実確認を行います。
加算要件や請求に関する運用は、制度改定の影響を受けます。
加算管理は、記録を増やす仕事ではなく、要件確認を日々の業務に組み込む仕事です。
詳細な要件は、最新の公募要領、解釈通知、自治体や審査支払機関の案内で必ず確認してください。
採用定着と稼働率を両立させる現場指標の見方

採用と定着、稼働率は別々の課題に見えます。
しかし現場ではつながっています。
予定変更の連絡が遅い、記録が終業後まで残る、相談相手がいない状態が続くと、職員の負荷が上がります。
その結果、受け入れ枠を増やせず、稼働にも影響します。
稼働率を上げる前に、職員が無理なく受け入れられる一日の上限を見える化します。
空き枠だけを埋めると、送迎、訪問移動、診療準備、急な対応にしわ寄せが出ます。
小規模事業所ほど、予定表上の空きと現場の余力は一致しません。
まず、経営者や管理者が週次で見る数字を絞ります。
多くても五つ程度にすると、現場との会話につなげやすくなります。
数値は評価や叱責のためではなく、詰まりの場所を探すために使います。
- 予定枠に対する実施数、予約数、または利用数の推移
- 当日キャンセル、直前変更、空き枠が埋まらなかった理由
- 記録や申し送りが期限内に完了した割合
- 残業や持ち帰り作業が発生した時間帯と業務内容
- 休暇取得、欠勤、面談で出た困りごとの傾向
たとえば、午後に記録遅れが集中するなら、午前の受け入れ数を単純に増やす判断は危険です。
担当の偏り、端末の不足、連絡待ち、会計や次回予約の手順などを確認します。
歯科では診療チェアの稼働だけでなく、器具準備と片付けの余力も見ます。
採用広報にも、この整理は役立ちます。
「忙しいが助け合う」と抽象的に伝えるより、担当の持ち方、相談の時間、記録の支援方法を説明できるからです。
入職後の現実とのずれを減らす材料になります。
お盆の前後は、休暇や利用・受診の動きによって稼働差が出やすい時期です。
通常より静かな日があるなら、数字を集計するだけで終わらせず、現場と二十分だけ確認する場を設けます。
人材定着と稼働率は、現場の余力を共通指標にして見ると、同時に改善点を探しやすくなります。
お盆明けから始める30日間の業務改善ステップ

自律チームの考え方は、組織改革として始めると負担が大きくなります。
まずは一つの業務で、判断の流れを整える小さな実験として始めてください。
対象を広げるのは、現場が「これなら続けられる」と確認できてからで十分です。
中小の介護・医療事業所では、30日間で一業務を整え、効果と負担を見て次へ進む方法が現実的です。
最初から全職員、全サービス、全患者を対象にしないことが、定着の条件になります。
最初の一週間は、対象業務を一つ選びます。
候補は、当日キャンセル対応、訪問予定の変更、記録の一次確認、予約変更、診療後の次回案内などです。
「毎日発生する」「複数人が関わる」「管理者への確認が多い」の三条件に当てはまる仕事を選びます。
二週目は、現状の流れを紙一枚に書き出します。
誰が、いつ、何を見て、誰に渡すかを矢印でつなぎます。
そのうえで、現場で決めてよい範囲と、管理者へ上げる条件を分けます。
例外の条件は、利用者・患者の安全、契約や費用、職員配置に影響するものを中心にします。
三週目は、朝礼や終礼の五分間で試行します。
困った点は、その日のうちに一つだけ修正します。
ルールを完璧にしてから開始するより、実際の変更に合わせて短く直す方が使われやすくなります。
変更履歴を残す担当者も決めておきます。
四週目は、開始前後を比べます。
見るのは、処理にかかった時間だけではありません。
管理者への確認回数、連絡漏れ、記録の期限遅れ、職員の困りごとも確認します。
改善が見られなくても、どこで止まったかが分かれば次の設計材料になります。
AI、記録システム、予約システムの導入は、この業務整理の後に検討します。
仕組みが曖昧なまま導入すると、紙や口頭の混乱を画面に移すだけになりかねません。
補助金を使う場合も、対象経費や申請時期、事業計画の要件は年度ごとに変わるため、最新の公募要領で必ず確認してください。
下半期に向けて必要なのは、大きな改革宣言ではありません。
一つの現場業務を、担当者が迷わず引き継げる形にすることが、介護・医療の持続的な業務改善につながります。
よくある質問
Q. 自律チームは小規模な介護事業所でもできますか?
はい、少人数の事業所でも一業務から始められます。
組織を大きく変える必要はなく、主担当と副担当、現場で決める範囲、管理者へ相談する条件を決めるだけでも実践できます。
まずは予定変更や記録確認など、毎日発生する業務を対象にしてください。
Q. 介護の人員不足を業務改善だけで解決できますか?
業務改善だけで人員不足そのものを解決することはできません。
ですが、情報の偏り、確認待ち、記録のやり直しを減らすことで、限られた人員の負荷を把握しやすくなります。
採用、定着、シフト設計と並行して進めることが大切です。
Q. クリニックで自律チームを導入する際の注意点は?
クリニックでは、診療上の判断と業務上の調整を明確に分けることが重要です。
受付や看護スタッフが予約変更、連絡、準備を判断できる範囲を定めます。
一方で、診療方針や安全に関わる事項は、医師を含む責任者へ速やかに相談するルールを残します。
Q. 歯科の記録業務を効率化するには何から始めますか?
歯科の記録業務は、記録が遅れる場面を一週間観察することから始めます。
診療直後、会計前、終業前のどこで止まるかを確認してください。
その後、必須記録の確認時点を前倒しし、担当者と確認者を分けると、月末の修正作業を抑えやすくなります。
Q. 介護記録に生成AIを使っても問題ありませんか?
生成AIは、条件を整えれば補助的に使える場合がありますが、無条件での利用は避けるべきです。
個人情報の入力範囲、サービス提供者との契約、保存先、アクセス権限を確認してください。
出力内容は必ず職員が事実確認し、制度上必要な記録の責任をAIに任せないことが必要です。
中小企業が明日から取り組めること
- 管理者への確認が毎日発生する業務を一つ選び、確認内容と発生時刻を一週間だけ記録します。
- 利用者・患者ごとに主担当と副担当を仮決めし、副担当が知るべき情報を三項目に絞ります。
- 朝礼または終礼で五分間だけ使い、当日変更がある案件だけを職種横断で確認します。
- 記録の不足を月末ではなく翌営業日に確認する当番を置き、差し戻し理由を分類します。
- 週に一度、稼働数と残業時間を並べて見て、受け入れ増加で詰まる工程を話し合います。
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この記事を書いた人
吉田 光広 / 代表取締役CEO ストラテジーデザイン株式会社
1997年からITの最前線に立ち、ゲーム開発を経てWeb・システム開発の会社経営を20年以上継続。 現在はAIコンサルタントとして上場企業への講師登壇や高校生向けAI教育を担当し、 ITプロ育成スクール「PROCLASS」代表も兼務。中小企業のAI・DX導入を現場で支援している。
著書:泥臭いAI ― リアルビジネスをAIでハックする/AIを雇う技術 ― 100人の天才を部下にする仕事術/AI×教育の実践ガイド ― 問いを立てる力を育てる