新規事業のブランド設計は“ゼロ→イチ”ではなく“100→1”

すべてを足すのではなく、“核だけを残す”ブランド構築メソッド

新規事業のブランドづくりというと、「ゼロからつくる」というイメージが一般的です。
しかし、実際の現場で私が重視している考え方は真逆です。
ブランドは ゼロからつくるのではなく、“100ある情報から1を抜き出す” 作業 に近いのです。

多くの経営者は、新規事業だから“何もないところから始める”と思いがちですが、実はブランド構築において「素材がない」ことなどほとんどありません。
市場・顧客・価値・ストーリー……ブランドのヒントとなる情報は最初からたくさん散らばっています。

重要なのは、それらを全部並べることではなく、事業の核(コア)となる1つの軸だけを抽出すること

この思考こそが、「ゼロ→イチ」ではなく「100→1」のブランド設計です。

“100→1” がなぜ正しいアプローチなのか?

新規事業の失敗例を見ていると、共通して以下の傾向があります。

① 伝えるべきことが多すぎて、何も伝わらない

新規事業はこだわりも熱量も強い。
だからこそ、創業者は「全部伝えたくなる」という罠に陥りやすい。

  • 素材がいい

  • 技術が優れている

  • 社会貢献性がある

  • ビジョンが壮大

  • お客様の声がいい

  • デザインコンセプトが深い

これらすべてを盛り込むと、結局 誰にも刺さらない凡庸なブランド になります。

② 競合との差別化ポイントがぼやける

市場にはすでに似た商品・サービスが溢れています。
その中で生き残れるのは、たった一つの強みがとび抜けているブランド だけです。

しかし“全部を武器にしよう”とすると、結局どれも薄くなる。
だから成功しません。

③ “世界観” が構築できない

ブランドは世界観によって認知され、記憶され、ファン化される。
その世界観をつくるには、不要な情報は排除し、核となる価値を強調する必要がある

つまり、ブランド設計は「加点方式」ではなく「減点方式」が正解なのです。

新規事業ブランドの成功は “何を捨てるか” で決まる

100のアイデア・想い・特徴があったとしても、顧客が最初に受け取るのは 1つの価値だけ
ブランドは最初から全部見せる必要はありません。

▼例)クラフトコーラの新ブランド

  • 国産素材

  • 無添加

  • スパイスにこだわり

  • 調理の物語

  • 生産者ストーリー

  • 健康性

  • ギフト用途

  • パッケージデザイン

この中から核となるのが
「暮らしの中で毎日飲めるやさしいクラフトコーラ」
などの “1つの軸”。

そこさえ決まれば、他の要素はその軸を強める補助線として自然に並びます。

“100→1” を抽出するための実践ステップ

ここからは、実務として御社でも使えるように「手順」を整理します。


① まず、“100” を全部出す(情報の棚卸し)

新規事業の初期には、
・想い
・市場背景
・商品特徴
・技術
・競合
・顧客像
などの情報をすべて書き出します。

これは多いほど良い。


② 次に、“顧客に最も効く1つの価値”を選ぶ

ブランドの核は “顧客から見て唯一無二となる価値” です。
企業が伝えたいことではなく、顧客が受け取りたい価値。

その1つを選ぶ基準は以下です:

  • 競合と明確に差別化できるか?

  • 顧客が“すぐ理解できる”か?

  • 世界観として一貫したデザインにつながるか?

  • 事業として再現性がある価値か?

  • 社員全員が同じ言葉で説明できるか?

この基準で、100の中から「1」を決定します。


③ その“1”を中心にブランドストーリーを組み立てる

ブランドの核を決めたら、その理由となるストーリーを作ります。

  • なぜその価値が必要なのか

  • 創業者の原体験

  • 社会に対する問題意識

  • 技術の裏付け

  • 未来のビジョン

これらを追加してブランドの骨格をつくる。


④ デザイン・SNS・LPすべてを“1”に揃える

核となる価値(1)が決まれば、
デザインもSNSもLPも、すべてその“1”を増幅させるだけ。

ここで初めて

  • トーン&マナー

  • 配色

  • ストーリー動画

  • 代表メッセージ
    などが決まります。

ブランドが美しく機能するのは、この順序を守ったときです。

実例:100→1で急成長したブランドたち

私が手掛けてきた中でも、成功したブランドには必ず共通点があります。

● 和洋菓子ブランド「吉祥菓寮」

“きな粉の価値を最大化する” という“1”に絞ったことで、全国ブランドへ成長。

● ワインブランド(フジクレールなど)

“火山性土壌 × 自然派醸造”という“1”が世界観をつくり、海外展開までつながった。

● 新規ペットフード事業

“添加物ゼロ × 真空スチーム乾燥”という“1”が差別化の核となり、LP・SNS・販路拡大を一気通貫で設計できた。

どの事例にも共通するのは、
“全部を語らない勇気”
です。

まとめ:新規事業は“削る勇気”がブランドを強くする

ゼロから何かをつくるより、
価値の核を1つに絞るほうが遥かに難しく、しかし圧倒的に効果が高い。

新規事業こそ、
「100→1」という思考でブランドをつくるべき
なのです。

次回は、
「既存ブランドの立て直しに必要なのは“削ぎ落とし”」
をテーマに深掘りしていきます。

【次回予告】

第3回|既存ブランドの立て直しに必要なのは“削ぎ落とし”

 

次回は、既存ブランドを再生させる際に最も重要なアプローチである 「削ぎ落とす」という思考 について深掘りします。

 

ブランドが迷ったときこそ必要な「本質に戻る作業」。
その核心に迫ります。どうぞお楽しみに。

北川 聡

ブランディング・事業戦略コンサルタント

Strategy-Design株式会社

大学卒業後、不動産投資会社にて事業分析と投資スキーム構築に携わる。その後、家業である和菓子店に戻り、オンライン通販会社を立ち上げ、ECを軸にした新しい販売モデルを構築。家業を継承後は、和洋菓子ブランド 「吉祥菓寮」 を創設し、事業規模を約20倍・国内9店舗へと成長させるブランドへ育て上げた。

事業売却後は、自身が培ってきたブランド構築・事業運営・組織づくりの経験をもとに、IT領域に強みを持つ吉田との出会いをきっかけに ストラテジーデザイン株式会社 に参画。以降、ブランディング・事業戦略・海外展開支援の分野で、
「日本から世界へ繋がるブランドをつくる」 をテーマに、企業や商品の発展に尽力している。