ブランドは“言語化力”で決まる

ブランドづくりと聞くと、多くの企業はロゴデザインやサイト制作、SNS投稿など「目に見える作業」を思い浮かべます。しかし本質はそこではありません。

どれだけデザインを整えても、「ブランドの価値が何なのか」が言語化されていなければ、伝わることはありません。
むしろ、言語化されていないブランドは、デザインが整っているほど危険です。なぜなら、何を伝えたいのか曖昧なまま、表面だけが立派になり、顧客の記憶に何ひとつ残らないからです。

逆に、言語化が強いブランドは、たった1行で世界観が伝わり、顧客の記憶に残り続けます。

なぜブランドに「言語化」が必要なのか

理由はシンプルです。
人は“視覚よりも言葉で”ブランドを理解し記憶するからです。

たとえば、「自然派のスキンケアブランド」という情報だけでは、似た競合がいくらでも存在します。
しかし、
「敏感肌を救う、薬に頼らないスキンケア」
と言われれば、一瞬でブランドの立ち位置と存在理由が理解できます。

言葉はブランドの「核」になります。
核が決まれば、デザイン・SNS・接客・商品設計すべてに一貫性が生まれます。

言語化が弱いブランドに共通する3つの特徴

実務で多くの企業を見てきた中で、言語化に迷うブランドには以下の共通点があります。

① 商品説明になってしまう

「無添加」「こだわり素材」「職人技」
このような説明は情報として正しいものの、ブランドの世界観や哲学には繋がりません。

② 長くなりすぎる

「会社としての想い」「創業の歴史」「商品の特徴」
これらを全部詰め込もうとして、結局何も伝わらないケースが多いです。

③ ターゲットが広すぎる

「幅広い層に届けたい」という考えは、結果として誰にも刺さらない言葉になります。

1秒で伝わる言語化“3行フォーマット”

ブランドの核をつくるとき、私は必ず以下の3行でまとめます。


① 何を提供するブランドか(What)

→ 商品ではなく「価値」で説明する。

② 誰のためのブランドか(Who)

→ ペルソナを1人に絞る。

③ なぜこのブランドが必要なのか(Why)

→ 企業の存在意義・哲学を短く言い切る。


この3行がそろうと、ブランドは一気に「伝わる言葉」を持ちます。

ケーススタディ

では、この3行フォームを使って、仮想ブランドを例にしてみましょう。

▼架空ブランド:ナチュラルクラフトバター

  • What:素材の香りを生かす発酵バター

  • Who:料理と丁寧な暮らしを楽しむ30〜40代女性

  • Why:つくり手の顔が見える“安心できる贅沢”を届けるため

たった3行でも、
「安いバターではなく、ライフスタイル志向のブランドだ」
と一瞬で伝わります。

この“瞬間的に伝わる言語化”こそが、ブランドの最強武器です。

言語化はデザインより先に行うべき理由

デザインは「言葉の視覚翻訳」です。
つまり、言語化されたブランドの核がなければ、どんなデザインも本質を表現できません。

例えば、
・ゆるやかな暮らしのブランド → 温かいベージュトーン
・革新的なAIブランド → コントラストのあるモダンスタイル
・伝統産業のブランド → 深みのある配色+故事に基づくモチーフ

すべて、言語化が先にあるからこそ成立します。

企業は「ロゴより先に言葉をつくる」べき

ロゴやビジュアルは、言葉を正しく伝えるための“器”です。

器を先につくってしまうと、中身(言葉)が負けてしまいます。
逆に、中身(言語化)が強ければ、どんな器でも伝わります。

まとめ:ブランドは“語れる”かで決まる

ブランドの強さはデザインの良し悪しだけで決まりません。
社長・社員・SNS担当・営業が 同じ言葉でブランドを語れるか が大きな差になります。

ブランド=言語化力 × 一貫性

次回は、
「新規事業のブランド設計は“100→1”で考える」
について詳しく解説します。

【次回予告】

第2回|新規事業のブランド設計は“ゼロ→イチ”ではなく“100→1”

 

次回は、新規事業のブランド設計における“誤解されがちなスタート地点”について解説します。
多くの企業が新ブランドをつくる際、まず ロゴ・サイト・デザイン といった“形”から入ってしまいます。しかし、この順番は必ずと言っていいほど失敗につながります。

ブランドはゼロからつくるものではなく、
市場・顧客・価値・ストーリーという「100の情報」から“核となる1つ”を抽出する作業。

新規事業の“成功率を決める初動の一歩”を、ぜひお読みください。

北川 聡

ブランディング・事業戦略コンサルタント

Strategy-Design株式会社

大学卒業後、不動産投資会社にて事業分析と投資スキーム構築に携わる。その後、家業である和菓子店に戻り、オンライン通販会社を立ち上げ、ECを軸にした新しい販売モデルを構築。家業を継承後は、和洋菓子ブランド 「吉祥菓寮」 を創設し、事業規模を約20倍・国内9店舗へと成長させるブランドへ育て上げた。

事業売却後は、自身が培ってきたブランド構築・事業運営・組織づくりの経験をもとに、IT領域に強みを持つ吉田との出会いをきっかけに ストラテジーデザイン株式会社 に参画。以降、ブランディング・事業戦略・海外展開支援の分野で、
「日本から世界へ繋がるブランドをつくる」 をテーマに、企業や商品の発展に尽力している。