2代目・3代目の孤立を防ぐ。新規事業を「既存の敵」にしないためのリソース設計

 

「また若旦那が新しいことを始めたよ……」

 

伝統産業や地域に根ざした中小企業において、後継者が新しい挑戦を始めたとき、現場からこのような冷ややかな視線が送られるのは、残念ながら「よくある光景」です。

 

後継者としては、市場の縮小や時代の変化に危機感を覚え、会社を存続させるために必死で動いている。

 

一方、長年現場を支えてきた古参社員や職人たちからすれば、今の仕事(既存事業)こそが会社を支えている自負がある。

 

この「正義と正義の衝突」は、往々にして感情的な対立として片付けられがちです。

 

しかし、私たちが多くの現場を観測してきた結果、これは性格の問題ではなく、「リソース設計のミス」という構造的な問題であることが見えてきました。

 

なぜ、あなたの新規事業は「本業の邪魔」だと思われてしまうのか。そのメカニズムと、回避するための具体的な判断基準を紐解きます。

1. 何が起きているか:現場に現れる「拒絶反応」の正体

新規事業を立ち上げた際、組織には以下のような「症状」が現れます。

  • ・「兼務」という名の放置:

  • 現場のエース社員に新規事業を手伝わせた結果、既存事業の納期が遅れ、現場から不満が噴出する。

  •  
  • ・「名もなき実務」の押し付け:

  • 新しいWEBサイトの管理や配送作業など、新規事業に伴う細かな作業が、いつの間にか現場のルーチンワークに組み込まれ、現場の疲弊を招く。

  •  
  • ・「稼いでいない」というレッテル: 赤字を掘りながら進める新規事業に対し、「俺たちが稼いだ金を無駄遣いしている」という空気が社内に蔓延する。

  •  

これらが積み重なると、後継者は「誰も自分のビジョンを理解してくれない」と孤立し、現場は「後継者は現場を分かっていない」と心を閉ざす、不幸な分断が完成します。

2. なぜ起きるか:組織内で「OS」が衝突している

この衝突の背景には、一つの組織の中に「性質の異なる2つのOS」が共存できていないという構造的な原因があります。

① 「効率OS」と「探索OS」の不一致

既存事業の目的は、決まったものを、決まった品質で、効率よく回すこと(効率OS)です。

一方で新規事業は、正解がわからない中で試行錯誤を繰り返すこと(探索OS)が目的。

効率を美徳とする現場にとって、新規事業の「やり直し」や「検証」は、単なる「無駄な作業」にしか映りません。

② 共通リソースの「奪い合い」

中小企業において、人・モノ・カネというリソースは限られています。

新規事業にリソースを割くということは、物理的に既存事業のリソースを削ることを意味します。

この「トレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)」の設計が曖昧なまま、現場の「頑張り」で解決しようとすることが、摩擦の最大の原因です。

③ 評価制度の非対称性

既存事業のスタッフは「ミスをしないこと」「数字を守ること」で評価されます。

しかし、新規事業は「失敗から学ぶこと」が重要です。

この異なる評価基準が同じ土俵(給与体系や表彰など)にあると、現場は「自分たちは厳しく管理されているのに、あちらは自由に遊んでいる」という不公平感を抱きます。

3. 判断の基準:どこまで「本業」を侵食させていいか

新規事業を進める上で、経営者が持つべき「判断の線引き」を提示します。

■ 人員配置

  • やるべきこと: 既存事業の余剰(バッファ)内で完結させる。

  • やってはいけないこと: 現場のエースに「100% + α」の兼務をさせる。

■ 実務の切り分け

  • やるべきこと: 発送や問い合わせ等の「作業」は、可能な限り外注か別部隊にする。

  • やってはいけないこと: 「ついでだから」と、既存の事務職に安易に振る。

■ 投資判断

  • やるべきこと: 「既存事業の利益の◯%まで」と、投資の上限を明文化する。

  • やってはいけないこと: どんぶり勘定で、「必要なだけ」会社のお金を使い続ける。

4. 次の一手:組織の分断を防ぐアクション

後継者が孤立せず、既存事業の協力を得るために、明日から試せるアクションを3つ提案します。

アクション1:新規事業の「期限」と「撤退ルール」を全社に宣言する

「いつまで赤字を許容するのか」「どうなったら撤退するのか」を透明化します。

ゴールが見えない不安が、現場の不満に変わります。

期限を切ることで、「期間限定の挑戦なら協力しよう」という心理的な余白を現場に作ります。

アクション2:小さな成功を、本業に還元する

新規事業で得た新しい顧客データや、導入した新しいITツールの知見を、既存事業の効率化に役立てるなど、「新しいことを始めたおかげで、本業も少し楽になった/良くなった」という実感を早期に作ります。

アクション3:現場の「功労者」への敬意を形にする

新規事業が注目されがちな時ほど、既存事業を支えているメンバーを厚く遇してください。

朝礼での声掛け一つでも構いません。「あなたが本業を守ってくれているから、この挑戦ができる」というメッセージを、言葉と報酬(あるいは評価)で伝え続けることが、最大の防波堤になります。

構造を整えれば、対立は解消できる

2代目・3代目の孤独な戦いは、決して「個人の能力不足」ではありません。

既存事業と新規事業という、性質の違うものを一つのカゴに入れるための「仕切り(構造)」が足りていないだけなのです。

感情で説得するのではなく、リソースの設計図を描き直す。

それが、伝統を次世代につなぐ経営者の最も重要な仕事かもしれません。

もし、「自社のリソース配分が現状どうなっているのか客観的に見てほしい」「現場への伝え方を整理したい」といったお悩みがあれば、よければ壁打ちのお相手をさせていただきます。

 

久野雄治

事業戦略・ブランディング/AIIT活用コンサルタント

Strategy-Design株式会社

 

新卒で着物の卸売商社に入社し、流通や商品、産地と向き合う現場を経験。

ものづくりの価値と、それを事業として継続させる難しさを実感する中で、作り手・流通・小売・消費者の間にある構造や情報のズレに課題意識を持つようになる。

その後、ストラテジーデザイン株式会社に参画。ITコンサルティングの立場から、業務改善やデジタル活用を通じて、業界を問わず企業経営に伴走してきた。単なる効率化ではなく、経営判断や事業の組み立て方そのものを整理し直す支援を重視している。

また、実践の場として、着物を軸としたメディア・コミュニティ「キモノプラス」を立ち上げ、企画・発信・運営を自ら行う。事業の立ち上げから継続、試行錯誤までを当事者として経験することで、経営者が直面する悩みや判断の重みを自分ごととして捉えている。

現在は、ストラテジーデザイン株式会社にて、AIIT・ブランディング・情報発信を組み合わせながら、「事業が無理なく続く形」を経営者と共に考え、整え、実行していく支援を行っている。正解を押し付けるのではなく、同じ目線で悩み、選択肢を整理し、次の一手を一緒に考える姿勢を大切にしている。