既存ブランドの立て直しに必要なのは“削ぎ落とし”

成熟したブランドを再成長させるための構造改革メソッド

既存ブランドの再生は、新規事業以上に難易度が高いテーマです。
なぜなら、すでに「積み上げられた過去」があるから。

歴史、顧客、スタッフ、商品ラインナップ、社内文化、店舗デザイン、広告の癖……
成熟したブランドには、多くの“蓄積”が存在します。

しかし、ブランドが伸び悩むとき、原因の大半は 「積み上げすぎたもの」 にあります。

 

結論からいうと、既存ブランドの立て直しで最も必要なのは
“何を足すか” ではなく “何を削るか”
です。

ブランドは「足し算」で崩れ、「引き算」で立ち上がる

ブランドが衰退していくプロセスには、必ず共通点があります。

● ① 商品が増えすぎる

売上を伸ばすために新商品を作り続け、結果として「何のブランドなのか」が曖昧になる。

● ② メッセージが増えすぎる

広告、SNS、店頭POP……すべてが違うことを伝え始める。

● ③ 顧客の定義が広がりすぎる

「誰でもOKなブランド」は、最終的に誰からも選ばれない。

● ④ 世界観がブレる

デザインが複数ありすぎて、ブランドとしてのアイデンティティが薄れていく。

 

衰退期のブランドは例外なく、
足し算の結果、情報が濁ってしまっている のです。

削ぎ落としの目的は “ブランドの純度を取り戻すこと”

ブランドは「尖っているほど選ばれやすい」。
逆に“丸くなる”と、どれだけ広告費を使っても反応率は上がりません。

 

だからこそ既存ブランドはまず、
純度を取り戻すための“引き算”から着手するべき なのです。

削ぎ落としの3ステップ

立て直しの現場で、私が必ず行うプロセスは次の3つです。


ステップ①:ブランドの“核”を再定義する

まず行うのは、
「このブランドは何のために存在するのか?」
という原点を見つめ直す作業です。

 

すべてのブランドは、誕生時に“核”があります。

 

・創業者が何にこだわったか

・他社と決定的に違う点は何か

・顧客が実際に評価している価値は何か

・最も売れる商品・売れる理由は何か

 

これらを深掘りすると、
ブランドの本質(=これだけは絶対に捨ててはいけない価値)
が必ず見えてきます。

ブランドの立て直しは、この“核”を取り戻すところから始まります。


ステップ②:ブランドの雑音を排除する(徹底的な引き算)

ここからが削ぎ落としのフェーズです。
具体的には以下のものを削ります。

 

・伝わらないキャッチコピー

・売れない商品

・顧客から評価されていないサービス

・世界観を乱すデザイン・写真

・SNSでの無駄な投稿内容

・組織内で浸透していない理念

・使われていないマーケティング施策

 

削る基準はただ一つ。

「再定義した核の価値に貢献しているか?」

この基準だけで、ブランドは一気に純度を取り戻します。


ステップ③:世界観を再構築し、発信を統一する

核の価値が明確になり、余計なものが削ぎ落とされると、
ブランドは驚くほどクリアに見えてきます。

ここで初めて、

 

・デザイン

・商品ラインナップ

・SNSのトーン

・店舗の内装

・接客マニュアル

・代表メッセージ

 

すべてを“一つの言葉”に揃える。

すると、ブランドは一貫性を持ち、ファンが自然と戻り始めます。

ケース:和洋菓子ブランド「吉祥菓寮」の立て直しで起きた変化

私自身が関わった事例として、きな粉に特化した和洋菓子ブランド「吉祥菓寮」があります。

立ち上げ当時、和・洋・スイーツ・ギフトなど多方向の魅力が混ざり合っていました。
そこで徹底的に削ぎ、“きな粉の魅力を最大化する”という核に絞ったことで、

・商品開発の軸が明確に

・SNSの反応が急激に向上

・世界観が統一され店舗の雰囲気まで変化

・来店目的が明確になり、ファンが急増

・9店舗まで全国展開へ

 

ブランドの立て直しは、「何かを増やしたこと」が成功の理由ではありません。
逆に、余計なものを削り、“核”だけを残したことが勝因だったのです。

まとめ:削ぎ落とすと、ブランドは強くなる

ブランドが成長しない理由は
「足りないから」ではなく「多すぎるから」
であることが大半です。

 

だからこそ、既存ブランドを再生する際には足す前に、必ず削ぐ。

削ぎ落とすことで、

・発信の一貫性が生まれる

・顧客が選びやすくなる

・社内が動きやすくなる

・デザインが洗練される

・SNSが伸びる

・“ブランドらしさ”が蘇る

 

ブランドは、引き算で強くなるのです。

 

次回は、
「既存ブランドの立て直しに必要なのは“削ぎ落とし”」
をテーマに深掘りしていきます。

次回予告

第4回は、
「SNSが伸びない本当の理由は“コンセプトが曖昧だから”」
をテーマに掘り下げます。

 

SNS運用はテクニックの問題ではなく、ブランドの問題です。
次回も実例とともに、深くご紹介します。

北川 聡

ブランディング・事業戦略コンサルタント

Strategy-Design株式会社

大学卒業後、不動産投資会社にて事業分析と投資スキーム構築に携わる。その後、家業である和菓子店に戻り、オンライン通販会社を立ち上げ、ECを軸にした新しい販売モデルを構築。家業を継承後は、和洋菓子ブランド 「吉祥菓寮」 を創設し、事業規模を約20倍・国内9店舗へと成長させるブランドへ育て上げた。

事業売却後は、自身が培ってきたブランド構築・事業運営・組織づくりの経験をもとに、IT領域に強みを持つ吉田との出会いをきっかけに ストラテジーデザイン株式会社 に参画。以降、ブランディング・事業戦略・海外展開支援の分野で、
「日本から世界へ繋がるブランドをつくる」 をテーマに、企業や商品の発展に尽力している。